学びのつぼ

やる気のスイッチ

脱皮する瞬間 認め喜ぶ 

 例年になく短い夏休みが終わり、学習の秋の到来です。特に中学受験を控えた6年生は来年1月に本格化する入試へ向け、この秋から本格的な受験勉強に取り組む時期になります。
 時を同じくして、多くの受験生の親から「いつになったら、わが子にやる気のスイッチが入るのでしょうか」と相談を受けます。いや応なしに入試までの月日を逆算し、期待が不安へと変わる時期なのです。
 しかし親の心配をよそに、一向に代わり映えしないわが子…。中学受験は特に、サポートする家族の関わりも大きい一大イベントですから、目に見えないスイッチの場所が気になって仕方がない。そんな気持ちは痛いほど分かります。
 そのスイッチとは。押せば一瞬にして目の色を変えて全力で走りだす―。そんなイメージでしょうか。しかし小学生を長年指導してきた経験から申しますと、残念ながら、そんな夢のようなものは子どものどこを探しても見当たりません。
 昨日までのんびりしていた子どもが、ある日を境にがむしゃらに勉強を始め、そして入試まで一直線で走り抜ける。ドラマや小説のような展開を私たち塾講師も追い求めてはいますが、見果てぬ夢です。
 ただ、別の意味でスイッチはあるとも言えます。劇的な変化でなくとも、これからの数カ月の間、理想的な姿に変わっていく転換点はたくさんあるのです。
 塾視点での事例ですが、休みがちだった子が必ず来るようになった▽勉強開始までの準備が早くなった▽時計の針ばかり気にしていた子が居残り学習もいとわなくなった▽休憩時間になっても最後まで問題を解くようになった▽自分から質問に来るようになった▽成績に関心を持つようになった―というふうに。
 子どもが自ら脱皮する瞬間が必ずあります。それを見逃さず、その都度さりげなく、進歩を認めて喜んであげる―。それこそが、親が押してあげられるスイッチではないでしょうか。しかも、そういうスイッチなら、きっと何十個とあるはずです。ですから塾としても、子どもの変化をリアルタイムで家庭と共有することがとても大切なことだと考えています。
 わが子を信じて見守るのは大変なことですが、やきもきするのは中学受験に取り組む親の試練です。プラスの変化が見えた時に現れるスイッチ。押し忘れないでくださいね。

 

2020.9.7朝刊掲載

(転載に関しては中国新聞社の許諾を得ています)

 

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