学びのつぼ

入試当日の保護者

落ち着いて普段通りに 

 広島市内では今週から、2020年春の入学者を選ぶ中学入試が終盤に入ります。何年も塾通いを続けた受験生のほぼ全員が勇気を振り絞って入試会場へ向かいます。子どもにとって一生に一度の経験。保護者にとっても子どもと手を携えて頑張ってきたこの数年間のフィナーレ。塾や家庭で、さまざまな葛藤や波乱があったことでしょう。誰一人として同じストーリーはありません。
 私たち塾関係者にとって、毎年とはいえ、この緊張感と高揚感は慣れるものではありません。心残りのないよう、子どもたちには試験が始まる直前まで指導し、保護者とは心を一つにして共に祈ります。
 入試シーズンは今月上旬に本格化しましたが、今回は保護者が最後に気を付けておきたい点に触れます。
 まれに、叱咤(しった)激励が過ぎて試験直前までわが子を諭すかのような言葉を発してしまう保護者が見受けられます。残り1秒まで気を抜かず全力で、という気持ちは分かるのですが、もうこの時期に「むちを入れる」ことが賢明とは思えません。過度な一方通行の言葉は、集中力を妨げることはあっても高めることはないのです。まず見守る側の大人が落ち着くことで子どもが落ち着く。そんなイメージでわが子に接してください。
 集中力を途切れさせまいと、入試会場に着くや否や誰とも会わせずに子どもを教室に向かわせる保護者もいます。子ども自身がそれを求めているのなら問題ないのですが、緊張のピークにある子どもたちは、実は塾の友達や講師の先生と会話することで落ち着きを取り戻すことができます。
 その場で少々ふざけたり笑い合ったりしても、リラックスしたことが原因でテスト本番に失敗した話など聞いたことはありません。むしろ極端に気持ちを入れ込んでしまって実力を発揮できなかったという反省をよく聞きます。入試当日は確かに特別な一日ではありますが、それでもできるだけ普段通りのルーティンをすることをお勧めします。
 中学入試は楽しいイベントではありません。11歳、12歳の幼い子どもに合格・不合格の結果が突き付けられる残酷なものです。しかし、子どもたちは大人が思う以上に強い。感動的なまでに強いのです。望み通りの結果が欲しいのは誰もが同じです。しかしながらそれを超えて、気付けなかったわが子の成長した姿を見つけられる。そんな日々になると確信しています。

 

2020.1.20朝刊掲載

(転載に関しては中国新聞社の許諾を得ています)

 

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