風鈴について

満腹日和

風鈴について

夏の始まりのある日のこと、街角の店先に、風鈴が吊るされていました。

それを揺らすのはさわやかな、というより熱の塊のような無粋な風ではありましたが、それでも風鈴は軽やかな響きを周囲に運び続けています。

鋳物の風鈴も独特の味わいがありますが、やはりガラス製の江戸風鈴は見た目も涼しげです。

滝の流れる音。波の寄せる音。川のせせらぎ、小鳥のさえずり。そして風鈴の音。

これらの共通点は規則正しさと予測できない不規則な変化が絶妙なバランスで混ざり合ったリズムや変動であること。これを「1/fゆらぎ」といい、これに該当する音を聞くと人間は癒しや心地よさを感じるという説があります。

風鈴は夏の暑さに苛立つ心をなだめ、落ち着かせる音色を持つことを、いにしえの人々は経験則として知っていたのかもしれません。

 

災害級の暑さ、というフレーズを今年はよく聞きます。

気象庁が「酷暑日」を新たに制定したからというわけではないのでしょうが、連日35度超えが当たり前の今年の夏は、確かに暑さのフェーズが1段階変わったような印象を受けます。肌を焼くような日差しはやたらに攻撃的で、最高気温が30度台前半であれば「今日は涼しい」と錯覚してしまいそうになるほどです。

この間、夕方に急に黒い雲が沸き立ち、前も見えなくなるほどの激しい夕立がありましたが、熱気を完全に奪うには至らず、むしろアスファルトに残った熱が蒸気となって、足下にまとわりつきながら這い上がってくるような、湿った熱い空気をより強く感じさせるものにしかなりませんでした。予報によればこの暑さはまだしばらく続くらしく、どうやら長い残暑になりそうです。

 

風鈴の起源は、古代インドの寺院にあります。

魔除けの道具として寺の塔廟に吊るされていた「風鐸(ふうたく)」という文化を中国僧が持ち帰りました。それは魔除けであるだけでなく、占風鐸という占いの道具でもあり、寺院の荘厳さの演出でもありました。中には5000以上もの風鐸を吊るした寺院もあったといいます。

それが大衆化したのは中世のこと。

疫病が流行しやすい夏の時期に暑気払いとして庶民の家にも吊るされるようになりました。

江戸時代後期になると江戸切子などガラス生産が有名だったこともあって、江戸の人々の間で粋と涼を楽しむ道具へと変化していきました。

 

このように風鈴に長く親しんできた日本人は風鈴の音を聞くと体表面の温度が2~3℃下がるという事実が立証されているそうです。「風鈴の音→風が吹いた→涼しい」と脳が判断し、そこから「体温が下がるぞ」という指令を末梢神経に送るとのこと。さらに驚くのはこの事象は風鈴に馴染みのない国に住む人では発生せず、日本人にのみ見られるのだそうです。風鈴の音色は遺伝子レベルで私たちの中に鳴り響いているということでしょうか。

 

早いもので、7月に始まった白石学習院の夏期講座も折り返し地点を超えました。過酷な気候条件の下にあっても懸命に学習に打ち込んでいる生徒の姿こそ、私たちの情熱の原動力でもあります。この後模擬試験も控えてはいますが、酷暑の中の鍛錬は、きっと今後の糧になっていくはずです。少しだけ心のゆとりが必要な際は、風鈴の涼やかな響きに耳を傾けて、いざ、夏の後半戦へ。

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