Theoria

第43回

闇を切り裂く朝日が昇る時、夜明けの到来を告げる一番鳥の声とともに新しい年が幕を開けました。「酉」は本来酒を満たす壺を意味する象形文字で、その「酒」もこの字がもとになって作られています。新たな年が期待と希望に満ちたものになってほしいと、心から祈ります。
 ただ、世間の正月気分をよそに、受験生は残された僅かな時間を惜しむかのように、今日も机に向かっています。彼らにとっては今が夜明け前。最も闇が深い時期を過ごしていることでしょう。毎年この時期は、そんな彼らの姿を思い浮かべながら編集作業にあたります。
 さて、今年最初の表紙はどうしよう-そう考え始めたのが出雲大社から帰って数日後。とらえどころのない浮雲のようなアイデアは、つかもうとする側から失われていきます。思いあぐねて自宅の白い天井を見上げた時、その隙間を縫うように傍らのテレビから聞こえてきたのは映画「君の名は。」の挿入歌でした。-君の名は、受験生-よし、それでいこう。
 ところが各方面で大絶賛され、興行的にも記録的成功を収めたこの映画、実はその時点ではまだ見ておりませんでした。できるだけ対象に誠実でなくてはならない、ならばと思い立ち、すぐに映画館へと駆け込みました。ただしおじさん一人で見るには少し勇気が必要だったので、なるべく人の少なそうな場所と日時を選択せざるを得ませんでしたが、これも仕事だと自分に言い聞かせることにしました。
 107分の上映時間中、美しいと評判の風景美、特に自然光のライティングにまず感心。次いで音楽と映像のシンクロナイズに気をとられつつ、ああこれは確かに引き込まれるなあと納得しました。後日、この作品は平安王朝期の「とりかえばや物語」や、世界三大美女で有名な小野小町の「夢と知りせば覚めざらましを」の和歌がストーリーの根幹部分の着想になっていることを知りました。時代を超えて受け継がれてきた伝統文化へのリスペクトが、この映画が多くの支持を得た理由のひとつなのかもしれません。
 さて、今回の表紙は作中の「かたわれ時」をイメージしました。まだ「受験生」でしかない一人ひとりが、来る春にはなりたい自分になるために、入試というハードルを高く跳び越えてほしいと心から願います。
 SG JOURNAL Theoriaも今年5年目を迎えます。「酉」という字には収穫した作物から酒を抽出する、果実が成熟した状態であるという意味もあります。より成熟した紙面をお届けできるよう、努力して参りますので、引き続きご愛読いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。